Sho Kikuchiの『O Mi Jamaica !』は、レゲエがインターナショナルな音楽として大きな話題となった1980年代を中心にして、119点のショットを厳選している。
観ていて、なにか、ぞくぞくしてくる写真集だ。
熱い歌、深い歌詞、感動されられる音楽には、聞き手がそうなる背景が必ずやあるものだと思うが、『O Mi Jamaica !』は「レゲエってこういう匂い」「こういう街角から生まれたんだ」というカナメをおさえているから、こうもビリビリ感じるのだろう。
今回 Sho Kikuchi が蔵出しした写真は主に80年代に焦点が当てられている。80年代のレゲエは、70年代に比べてはるかに国際的になっていた。だがそれは上辺だけであって、この音楽の「現場」はずいぶんと違ったものだった。
「ジャマイカには、近づかないほうがいいんじゃない?(いくら好きでもね)」
そんな言葉が、熱心なレゲエ・ファンや、音楽雑誌の周辺でも普通に飛び交っていた。それだけジャマイカは「未知の島」で「ヤバそうな場所」だった。
しかしSho Kikuchiは、周囲のネガティブな会話など関係なく、ジャマイカへ旅立った。カメラバッグ一つで。
貧しく、エネルギッシュで、デインジャラスで、しかも明るくポップ…という「素晴らしき混沌」が、そこにあったという。『O Mi Jamaica !』は、この時の、一人のカメラマンの感動なり仰天なりが詰まっているのだ。
私は音楽雑誌の担当編集者として、当時ジャマイカへ向かったフォト・ジャーナリストを何人か知っているが、Sho Kikuchiほど「普通に」最貧地区(それはレゲエの震源地)を訪れた人を知らない。
『O Mi Jamaica !』に写し出された高名なミュージシャンや、地元の大フェスティバルや、屋台のおばさんたちが、素敵にフツーに見えるのは Sho Kikuchiの人間性のなせるわざであり、彼の技量である。
こういう場所からレゲエ・ミュージックが、毎日毎日、生まれ出ているというシミジミするような感動。
『O Mi Jamaica !』は、ポップ・ミュージックってどんなものかを教えてくれる。
初めてのジャマイカ行きが1982年だったという。『O Mi Jamaica !』は、そこからスタートする。以来、彼は数え切れないほど、かの地へ出かけた。日本のレゲエ・シーンとも、ずっと関わりつづけている。
その自負がある。
レゲエは、ずっと自分の体内で「普通に」響いてきたのだという、自負である。
『O Mi Jamaica !』は、そんなカメラマンの、原点を写した写真集でもあるはずだ。
(文・藤田正)