<著者紹介>
くすやま・まさお。児童文学者。童話作家協会の設立メンバー。一八八四年〜一九五〇年。東京生まれ。
早稲田大学を卒業の後、早稲田文学社、読売新聞を経て、大隈重信の雑誌「新日本」の編集に携わる。児童文学としては一九一〇年に「イソップ物語」を、一九一三年には「世界童話宝玉集」を、続いて「日本童話宝玉集」を発表し(一九二一年〜一九二二年)、大正期の児童文学者として名を成した。「赤い鳥」には一九二〇年から寄稿が始まり、同時に「金の星」「童話」などにも作品を発表している。
演劇界でもチェーホフの「熊」、ツルゲーネフの「その前夜」などを翻訳脚色するなど、多くの業績を遺した。
<本書の序>
最近以來、「赤い鳥」の運動と刺戟とによつて、日本が、すぐれた純藝術家の多くを、はじめて子供たちのために仰ぎ得たことはひとりわれわれの窃かなる歡喜であるばかりでなく、日本の文化の上において、われわれの世紀そのものが誇り得る、大きな革命の一つでなければならない。
楠山正雄氏は、それ等の藝術家の中で、私たちを率ゐて、最早く、この方面に努力された人の一人である。氏は、四五年前から深い興味と熱心とを以て、從來亂雜荒蕪のまゝ放置されてゐた兒童文献の整理に當られ、なお最近以來、それ等の經驗を、氏の優秀な素質と技倆とに加へて、續々創作を捧げられるに至つた。われわれは同氏のごとき人に向つてこそ、なほこの上どこまでも、本當の意味の多くを乞ひ望み得るのである。本冊に這入つてゐる十二の作篇中、「祖母」と 「玩具」 と「太陽と花」「莓の國」とは、氏の最初の純創作である。われわれはこれ等をまとめて選ばれたる人々の批評のまへに捧げることを、多大の誇りとするものである。
以上四篇のうち、「莓の國」の中で、子供が夢で莓の國に遊ぶ場面は、活動映畫の器械的幻影を利用したい考へで書かれたものである。
以下、そのほかの話篇について、參考のために、私の窺ひ得る限りを列記して見る。
最初の「白い鳥」は、いふまでもなく、風土記の古傳説を現代化し複化した作篇である。その次の「海と汽船」は、英國の作家、キプリングの小話の再話されたもの。「にせ浦島」と「若くなる泉」とは、石川雅望の「しみのすみか物語」中の話。「天の水、地の水」は、支那の唐代の小説、「李衞公別傳」のお話。「駒鳥の婚禮」は、イギリスの兒童のために書かれた小篇を、試みに日本の少年少女のために書きかへて見られたものである。
純粹の西洋童話としては、「惡い仲間」と「ピーター・パン」の二つが見出される。後者は、いふまでもなく、英國の作家バリーの、有名な童話劇の筋を語られた話篇である。
鈴木 三重吉