るならば、自分が「奴隷の子孫」であることに目をそら
すなと言う。
マルコムXが伝えようとしたこと、それはジャマイカ
黒人、ボブ・マーリーにとっても無縁ではなかった。無
縁であるどころか、生前のマーリーは、マルコムXやマ
ーティン・ルーサー・キング牧師らの遺志を受け継ぐ黒
人解放運動の闘士とみなされていたこともあった。貧し
いカリブ海の小国、ジャマイカが生んだ国際的シンガー
は、その音楽が持つメッセージの鋭さゆえに「第三世界
の代弁者」なり「怒れる黒人たちの声」として格別の存
在とみなされてきた。
残念なことにマルコムXは、右の演説から二年後の一
九六五年に、キング牧師は六八年に、共に凶弾に倒れた
が、ボブ・マーリーは、重ねられた暗殺の記憶がまだ消
えぬ七十年代初頭、二人の面影をどこかに遺しながら世
界に登場したのである。
もちろんボブ・マーリーはミュージシャンである。彼
は多くのヒット曲を生み出したメロディ・メイカーであ
り、何より優れた歌手であった。
ミュージシャンは音楽によって人の心を健やかに解き
放つことが第一の仕事であるのだろうが、マーリーや、
彼と同時代のレゲエ・ミュージシャンの多くは、往々に