はじめに
ボブ・マーリーは、かつて「神」と言われたことがあ
った。
歌の技量が優れている、ということではない。あるい
はヒット・ソングを量産して誰もその人気を超えること
ができない、という意味でもない。彼の歌や、歌詞、発
言が、天上からの啓示と聴こえる。だからヒトを超えた
ヒト、であると。
今もそう思っている人がいる。ジャマイカの田舎で私
が出会った農民の中にもそう語る人がいた。日本の青年
たちにもいる。
端正な顔立ちのボブ・マーリーである。エキゾチック
なオーラをたたえたスター性のある人だ。そんな彼が国
際的なスターとなったあとも豪奢に着飾ることなく、高
価とも見えないジーンズをはき、自宅の庭先で仲間や近
くの子どもたちに囲まれてギターを弾いている。その優
しいまなざし。だがそのような男がいったんステージに
立つや、モノノケにでもとり憑かれたかのように長い髪
を振り乱し、踊り、声を荒げてうたう。ジャー・ラスタ